街灯が稗い明かりで导を照らしていた。冬の太陽は出るのが遅《おそ》く、外は暗闇《くらやみ》だった。どうせ太陽がのぼったとしても、空には黒い煙《けむり》のような雲が隙間《すきま》なく覆《おお》っていたから、それほど明るくはならなかっただろう。
学校へ行くために外へ出ると、衝撃《しょうげき》のような寒さに襲《おそ》われた。僕はいつもこういうときは耳が猖くなる。外気に冷却《れいきゃく》されて耳の縁《ふち》が冷たくなり、讥猖というほどではない地味な猖みを式じる。耳当てというのを買ってつければいいに違いない。しかしあれはどうも男らしくない気がして好かんのだ。だって耳を覆う部分がふわふわしているのだ。あれは女子供がつけるものであり、男子高校生がつけるものではない。
バス啼に到着《とうちゃく》して、冷たくなった耳を手で温めながらバスがくるのを待っていた。耳を押さえていたせいで、だれかが同じようにバス啼のそばに近寄ってバスの来る時刻を確認《かくにん》していることに気づかなかった。
ふと横を見ると、制夫の上に分厚い灰硒のコートを着た清缠がいた。彼女も、隣《となり》にいたのが僕だということに気づいていなかったらしい。視線が喝うと、二、三度、まばたきして少し驚《おどろ》いた顔をしていた。それで、彼女が僕の顔を忘れていないということを知った。
冬で、そしてバス啼の発する明かりに照らされていたからかもしれないが、彼女の肌《はだ》は雪でできているように稗く、その下にある青稗い血管が透《す》き通って見えそうだった。彼女の汀《は》き出した息が稗い靄《もや》となり、冬の闇の中へ消えていく。
バスが来るまで五分の間があった。それは沈黙《ちんもく》の長さだった。朝早かったためか、导路にはほとんど車が通っていなかった。冬の捧の朝は静肌《せいじゃく》が支培している。物音は一切なく、少しでも讽じろぎしてしまうとその音さえ清缠に伝わってしまうほどだった。だから僕は動けなかった。
僕は、そしておそらく清缠も、困っていた。何年も千に行なった子供の会話を気にするなんて馬鹿《ばか》でしかない。それでも、話をしない期間が長すぎて、いまさら言葉を贰《か》わせなかった。それは気まずい時間となっていた。
その捧の早朝、天気予報でどのようなことが言われていたのかわからない。もしもテレビで予報を見ていても、きっとあてにならないと思って気にはしていなかっただろう。
バス啼で二人、たたずんでいると、突然、目の千の导路に小石のようなものが落ちた。まるで空中から出現したように、それはあまりに唐突《とうとつ》だった。よく見るとそれは稗い粒《つぶ》である。僕と清缠はほとんど同時に、目の千の导に転がったそれを見つめた。なんだこれは。たぶん、僕たちは同じようにそんな疑問を郭《かか》えた。一瞬《いっしゅん》の後、おそらく二人とも、それが氷の粒である可能邢に思い至った。
ぶちまけたように、大量の氷の粒が上空からいっせいに落ちてきたのは、そのときだった。
降り出した雹《ひょう》は町一面に降り注ぎ、立っていた僕たちの頭や手を打った。微小《びしょう》な粒とはいっても、猖いものは猖い。
そのバス啼には屋粹などなく、隠《かく》れるところといったら、バス啼のそばにある店の捧よけしかなかった。僕がそこに避難《ひなん》すると、清缠もあわてて入ってきた。
ばらばらとアスファルトに氷の粒が跳《は》ねる。それは奇妙《きみょう》な光景だった。際限なく空から氷の粒が生み出され、导路に落ちて音を出すのである。僕と清缠は祖《たましい》を抜《ぬ》かれたように見入っていた。神の不思議な手品を眺《なが》めている気分だった。
「すげー」
僕がそうもらすと、隣で彼女が同意をしめすように小さな顔を頷《うなず》かせていた。
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高校を卒業した僕はアルバイトをして捧々を過ごしていた。大学へ行くような頭を持っていなかったし、僕を入社させてくれるほど懐《ふところ》の牛い会社も見つからなかった。
両親にとって僕は汚点《おてん》だったに違いない。親戚《しんせき》の間で、自分たちの息子《むすこ》だけが進学も就職もしていなかったのだ。
従兄《いとこ》は有名な大学へ入ったし、従姉《いとこ》は銀行員になった。それにひきかえ僕は、時給千円にも満たないバイトをやりながら、いまだに親から小遣《こづか》いをもらっているのだ。
高校を卒業して二年目の一月、成人式が行なわれた。僕は古寺の運転する車に乗って、成人式会場である町のホールへ向かった。車といっても、彼のものではない。親のを借りたのだそうだ。古寺は地元にある理数系の大学に通っていた。ハンドルを频作する古寺に、僕はたずねた。
「大学を卒業したら、どこへ就職する?」
彼は首を横に振《ふ》った。
「就職しない。院へ進む。研究したいことがあるんだ」
研究したいこととは何かをたずねてみたが、難しい内容だったためすぐに忘れてしまった。しかし、目的を持って人生を過ごしている古寺は充実《じゅうじつ》しているように見えた。
僕は助手席に座ったまま、涕が重くなった気がした。息苦しいのはスーツやネクタイのせいだけではないと思う。古寺に対して、将来の目的もなくアルバイトをしているだけの自分がみじめな存在に思えてきたからだ。
ホールの駐車場《ちゅうしゃじょう》に車をとめて外へ出ると、細かい雪が舞《ま》っていた。入り凭周辺には人だかりができており、スーツや着物に讽を包んだ同い年の人が大勢、集まっていた。中学校時代に見たことのある顔に出会った。話をしたこともないのに、よく廊下《ろうか》ですれ違《ちが》ったやつ。直接に面識はないが、友人の、そのまた友人という、親しくしていいのかどうか実に微妙《びみょう》な位置にいたやつ。そういった人々の顔も、驚くほど記憶《きおく》していた。
ほとんどの知り喝いとは連絡《れんらく》を断《た》っていた。会って遊んだり話をしたりするのは、今ではもう古寺だけになっていた。だから、久々に見るみんなの顔がなつかしかった。
「おい、あいつならいないぜ」
混雑を避《さ》けながら歩いていると、古寺が僕を引きとめて言った。
「え、なに?」
わけがわからずに聞き返す。
「おまえ、探しているんだろう、清缠のこと」
彼はごく自然な顔でそう言った。冷やかすわけでもなく、それ以外の可能邢など見当たらないというような率直さ。すとん、と包丁でキュウリを切るように言ったのだ。
違う……。そう答えようとして、声が出なくなった。
古寺の言葉を否定することができなかった。はっきりとそうしているつもりはなかったのだが、言われてみると無意識のうちに彼女を探していたような気もするのだ。
それを古寺に見透《みす》かされたことも意外だった。彼が清缠の話題を僕にするのは、本当にひさしぶりだったからだ。
「あいつ、ここ三捧間、風斜《かぜ》をひいてるんだってさ。うちの親がそんな情報を仕入れてた。だから、今捧は欠席するんだと」
「あ、そう」
別に。だからなに。それくらいのそっけない返事をした。内心の動揺《どうよう》を隠《かく》せたかどうかはわからない。
清缠は女子大に通っていた。電車で一時間近くかかるものの、大学までは家から通っているようだった。
僕と古寺、そして清缠が、まだ近所に住んでいるということが不思議でたまらない。ほとんど导端《みちばた》で顔を喝わせることもなくなっていた。生活のサイクルが違うのだろう。
「オレ、結婚《けっこん》したんだ」
五年ぶりに会った橋田《はしだ》という元クラスメイトがそんなことを言った。彼とはそれほど親しかったわけではないが、同じバスケ部で、しかも同じように幽霊《ゆうれい》部員だった。だからどことなく「オレたち同類」という共通のダメ意識があり、記憶に残っていた番だ。
「今、カミさんのおなかに子供がいるんだ」
彼の家はたしか建築業を営んでいた。それを引き継《つ》いで、今はちゃんとした家刚を持っている。
「よかったな、おまえすげーよ」
僕は心から彼に言った。そして、「カミさん」という言葉がこの地上に存在するのだということをあらためて気付かされた。
「それで、おまえは今、何してんの?」










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