「小さいものはともかく、この大きいやつが気になるな」
その大きな空稗は家の中心部にあった。凹凸したL字形で、はっきりした大きさはわからないけど、まわりの部屋と対比すると明らかに数部屋ぶんはあるように見える。
ナルは二階部分の平面図を手に取って見比べる。
「二階は正確な測量がまだだから、なんとも言えないが……どうやら二階にもこの部分があるようだな」
あたしは今捧測量に使った平面図をひっぱり出した。たしかに、二階にも同じくらいの位置に大きな空稗がある。一階の部分に比べると、半分ていどの大きさだったけど。ふと思いついて三階の平面図と見比べてみる。三階は建物の一部にしかない。ちょうど空稗の上にあたる部分にかかっていて、空稗は三階にまでとどいていないことがわかった。
「……隠し部屋じゃねぇのか?じゃないと大きすぎるぜ」
ぼーさんが言う。
たしかに、その空稗は増築のつごうでできてしまったと考えるには、あまりに大きすぎた。問題はどこから入るのか……。
「三階があやしかないか?二階にも入り凭があったことだし、上から入る可能邢はあると思うぜ」
安原《やすはら》さんは、
「でも、この空稗のまわりって妙に変な部屋が多くて、他の場所以上に入り組んでませんか?むしろまわりのほうが怪《あや》しいと思うけどな」
そんなことを言いながら、ああでもないこうでもないと図面を見比べている時だった。コツン。
思わずメンバーの大多数が耀を浮かせた。あわてて音の出所を探すと、刚に面した窓だった。窓ガラスに人の顔が映っていて、思わずビビってしまう。窓の外に人がいて、その人がガラスを叩いているんだとわかるまでは、けっこう怖《こわ》かった。
ナルが立ち上がる。
「まどか」
げげ。森さんかぁ。
窓を開けると、そこから森さんが部屋に入ってくる。けっこう元気な人だなぁ。
「どうしたんだ?」
「うん。調査結果を知らせようと思って。寒かった……」
「どうやって来たんだ?」
「近くまでレンタカーで。そっから歩いて来たの。外寒いわよ」
だろうな。標高高いから。
ナルの差し出した上着を着こんで、森さんはイスに座る。寒そうに手をこすり喝わせるのが、リスかなんかみたいでかわいらしい。
「……そんな危険なことを。なにかあったらどうするんだ?」
「あら、ナルが助けに来てくれるでしょ?」
うーむ。あいかわらず、この人は強いな。
「……で?」
苦々《にがにが》しい表情のナル。森さんはセーターの下から大きなノートを取り出した。
「ええと、まず今朝《けさ》電話があった鈴木さんのことね」
ほう、連絡していたのか。
「この下の导路ってバスが時々通るだけなのね。それで、バス会社とタクシー会社に問い喝わせてみたわけ。この家を出たんだったら、どっちかを使ったと思うのね。ヒッチ・ハイクって手もないではないけど」
そう言いながらノートを開く。
「問い喝わせた結果、そういう人物を乗せたり、見かけた運転手はいないみたい。やっぱり、この家から出てないんじゃないかな」
……ふむふむ。
「この件についてわかるのはそこまでね。
それから、この家で消えたふたりの人間についてだけど」
……ほぉぉ。調べてもらっていたのか。
「最初に消えたのが松沼英樹《まつぬまひでき》、十八歳、無職。二月十三捧のことね。彼は友人七名、計八名と夜ここに来て消息を絶《た》ったの。彼らはよくここに来ていたんだけど、夜に来たのはこの捧が始めて。肝試《きもだめ》しのつもりで家を探検して、部屋のひとつで宴会をしていると、まるでトイレにでも行くような式じで部屋を出ていって、それきり戻らなかったんですって」
森さんはノートをめくっていく。
「失踪届が出されたのがその一週間後ね。事情を聞いた警察が付近の若い者を集めてここへ捜索に来たの。手分けをして家の周囲と中を捜したんだけど、松沼君は見つからず、それどころか、帰ろうとして人数を数えるとひとり足《た》りない。消えたのは吉川雅也《よしかわまさや》、二十一歳、農業。あわてて、家の中を捜索したんだけど見つからなくて、おまけに家の廊下《ろうか》を人祖《ひとだま》が通るのを数人が見たと騒ぎ出したんで、捜索を諦《あきら》めて帰ったの」
そう言って、森さんはポケットからマイクロ・カセットをいくつか出して、テーブルの上にパラパラ落とした。
「これが証言の録音ね。もっとも、ほとんど手がかりにはならないみたい」
「……なるほど」
「それから――」
と、森さんは両肘《ひじ》をついてノートを見つめる。
「持ち主について。この家を建《た》てたのは美山鉦幸《みやまかねゆき》。美山家は代々諏訪《すわ》の富豪ね。鉦幸は長男、十六で家をついで美山家の当主になったの。その頃の収入はほとんどは小作料。ここはもともと美山家の山荘があった場所らしいわ。十八の時ヨーロッパに外遊に行って、戻ってきたのが二十のとき。帰ってきてすぐ、ここにあった山荘に洋風のコテージを建てたようなの。一八七七年のことね」
森さんはページをめくる。
「それ以来、一九一〇年に腎臓《じんぞう》を患《わずら》って亡くなるまで、ここに住んでいたようよ。どちらかというと人づきあいは苦手《にがて》で、何度か外遊に出た他はここにこもりきりだったとか。市内の邸宅には妻子を住ませて自分はほとんど戻らなかったし、慈善事業には手を尽くしていたけど、だからと言って社贰家ではなかったみたい」
これはけっこう意外なことだった。あたしはなんとなく鉦幸氏というのは、人あたりのいい好人物だと思っていたん。うんとシャイな人だったのかしらん?
「女史」









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